2004.05.04 困った虫たち

春はうれしい。
さびしかった庭に色彩が戻り、競うように花が咲き誇る。新緑の緑も輝いている。バラの蕾も膨らんで、鮮やかな花びらの色がこぼれんばかり。気付かぬうちに鼻歌のひとつも口ずさんでいるというもの・・・。
 ところがそうそう喜んでばかりもいられない。春を待ちわびていたのは何も人間様ばかりではないのだ。おいしいごちそうで満ちあふれたズッキィガーデンにいらっしゃる困ったお客さま、害虫のかたがたもきっと鼻歌を口ずさんでいるに違いない。
 

←お食事中のアブラムシくんたち
栄養たっぷりのバラの蕾はおいしいかい?

植物を育てる、という行為に必ずつきまとう苦労は、害虫駆除と雑草駆除のふたつに尽きると思う。最近よく考えるようになったのは、それを戦いと思うか共存の道をさぐるかでやり方も心構えも大きく変わってくる、ということだ。
私は今年、冬に石灰硫黄合剤を塗布して以来まだ一度も農薬散布をしていない。別に無農薬栽培宣言をするつもりもないのだが、なんとなく散布する気になれないでいる。去年の害虫大発生が理由である。

2年前は、市販のハンドスプレーを購入して使っていた。それだけで事足りる程度の庭だった。去年はバラの数も増え、さすがにそうはいかなくなって、ちゃんとした噴霧器と希釈して使う薬品を一通り揃えた。ただし、薬を撒くのは主人の仕事となった。なぜなら、ある時私の目がはれ上がって「お岩さん」のようになってしまったのが、どうやら農薬散布のせいだということがわかったからである。無防備な姿で散布していたというのもあるけれど、やっぱり薬品は恐い。

主人は去年、アオムシといっしょにご出勤したことが2度ほどあったらしい。一度は首筋がモゾモゾするので自分で気が付き、一度はバスの中で後の座席に座っていた親切な中年のサラリーマンに、「もしよろしければ肩に乗っているイモムシを取って差し上げたいのですが・・」と声をかけられたそうだ。ここで拒否する人はいないと思うのだけれど、なんともソフトなその言い回しに、それを聞いたとき私は思わず吹き出してしまった。
 笑い事ではない、と主人はムッとする。そのままアオムシを肩に乗せて満員電車に乗ったらたいへんだ、そばに若いOLでもいようものなら大声で悲鳴をあげられるに違いない・・・。光景を想像して、また私はゲラゲラ笑ってしまった。

 


きれいに咲いたと思ったその裏側には・・・

そんな事情で、主人は虫退治にかなり気合いが入っていた。ぐねぐねする軟体生物が嫌いな主人は、イモムシやナメクジのたぐいは素手で触ることが出来ない。農薬散布あるのみ、である。去年は私は仕事が非常に忙しくて、夏から秋にかけてほとんど庭の手入れができなかった。主人が一生懸命薬を撒いてくれたり、芝刈りをしてくれたりしたのは非常に助かったのだけれど、仕事がひと段落してようやく庭と語らう時間ができた頃、どうやら化学薬品に頼りすぎたかな、と思うようになった。

ヘンだなーと気付いたのは、あれほど払っても払っても同じところに巣を作っていたクモの姿がなくなっていたことが最初だった。そういえば・・・テントウムシの姿もお見かけしない。みんな殺虫剤で死んでしまったのか・・。
 そのくせ、シャクトリムシやアオムシは農薬散布から1、2週間もするといつのまにやらまた増殖している。冷夏の影響もあってか、去年はまさに害虫のオンパレードだった。チュウレンジバチもヨトウムシも、それからネキリムシにカイガラムシにハダニにコナジラミ。みんな、おととしは名前すら知らなかった害虫たちである。

  ←去年から持ち越しているハダニの被害

去年はバラの大苗をたくさん購入したので、今まで庭にいなかった虫たちも苗にくっついて遠路はるばるやってきたのかもしれない。天候不順だったけれど、つるばらは良く伸びて葉も旺盛に茂った。忙しくて夏剪定をほとんどしなかったから、風通しも悪かったのかもしれない。
でも、害虫についていろいろ調べているうちにわかったのは、自然界では虫の大量発生というのはあまりないのだということ。生態系がどこかで狂ったときに起こる現象なのだ。農作物の単植栽培や、美しい芝生なんてのもこれと同じだ。我が家の庭も、そこに本来ありもしない木々や植物をムリヤリ植えているのだから、もともと生態系が正常ではない。
それに加えて、虫たちの営みにまがいものの神の手をこれでもかというほど与え続けたら・・・。

私は普段の生活でよっぽどのことがない限り医薬品を飲まないことにしている。便秘薬ですら、飲み続けたらカラダが慣れてしまって効かなくなるというし、薬で排泄をしつづけていると臓器は自分でがんばらなくてもいいと思ってしまい、本来自分が持っている排泄の機能が働かなくなるのだという。そして、年を取って老化した体は自分で自分の処理をまったくできなくなって、ついにはオムツ生活となるのだという。う〜ぶるぶる。この話だけでも薬を飲むのはイヤだと思ってしまう。願わくば、美しく老いたい。せめておのれの下の世話くらい、周りに迷惑をかけたくはない。

秋、私は農薬の散布を止めた。すると、バラはたちまちうどん粉病と黒点病まみれとなり、コナジラミが発生して無残な姿となってしまった。落葉も早く、あっという間に丸坊主となった。おととしは年が明けてもけっこう青々とした葉が茂っていたように思う。消毒薬のおかげで病気に対する抵抗力がなくなっていたのだろう。
 自分自身は薬を飲まないのに、植物たちにはどうして予防薬や治癒薬をたくさん処方するのだろう。ヒトは、環境と食べ物で最低限の健康は保証されると思う。植物たちも同じではないのかしら。

<次回に続く>